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ITビジネスの原理が教えてくれたもの

尾原 和啓氏著の「ITビジネスの原理」を読んだ。
ITがビジネスの価値をどのように変えたのか、そして、その価値がどのように移り変わったかがとても分かりやすく良本だった。

「価値の違いを金に変える」から「情報の違いを金に変える」へ

旧来からの貿易商は、安い地域で仕入れたものを高い地位で販売することで利益を得る。
つまり、価値の差を利用して商いをしているわけだ。
これは、商人が価値の差に精通していることと、消費者が価値の差や入手手段について情報を持ち合わせていないことで成り立っているとも言える。

ここにITが入ることでガラリと状況が変わる。
それは「情報」が広く行き届くようになった結果だ。
商人が扱う情報が、ライバルとさほど差が無くなってくることや、消費者が多くの情報(値段の相場感、商店の選択肢増)を蓄えてきたことなど、「情報」の入手が容易になると、そこから価値を作る事が難しくなってしまったのだ。

では、ITでの価値とはなんなのだろうか?
本書ではリクルート社を例に挙げ、「情報の違い」が価値を生むと表現されている。

一方、転職者を受け入れたい企業にしてみると、転職したいと思っている人がいるのは間違いないのだけど、それがどこにいるのか分からない。どこにいるか分からない転職希望者を探すのは、とてもたいへんです。
(中略)
その「転職希望者がどこにいるのか」を知っているのがリクルートです。ここにビジネスが生まれるわけです。
(P.28)

情報が集約されたITはユーザーに利益をもたらし、またそのユーザー自信が情報として価値化される。
Googleを代表するITの先駆者たちは、この手法で情報の違いを武器として持ち、情報を使ってさらに情報を集め、そしてそれを第三者に販売するビジネスを展開しているのだ。

時間を細切れにして束ねる価値

ITで扱える時間単位はとても小さい。
今まで何も出来なかった数分の暇な時間を、スマホゲームやSNSなどに充てることが多くなったのは我々にも覚えが有るだろう。
さらに最近でてきたITサービスによって、この暇な時間の提供をも手軽にできるようになった。
クラウドソーシングサービスである。

そのサービスの一つにラスクルという印刷会社を挙げている。
この会社は、日本全国にある印刷所の印刷機の空き時間を集め、格安な印刷サービスを提供するというもの。
本書によると日本の印刷機の稼働率は45%程度。ラスクルは、その休眠時間を割安に提供してもらう。
休眠時間は不安定なので全国の印刷所の休眠時間を集める。
そうすることで、ひとつの印刷所の休眠時間では処理できない印刷量でも、複数の印刷所に分散させることによってサービス化できるのだ。

細切れの時間や労力はそれだけではさほどの価値を生まないが、それらを束ねて価値あるものにする。
これがITの力で可能になった価値だ。

ITに足りないもの

ではITで希薄になっているものはないだろうか。効率化の裏で無くなったものはなんだろうか。
著者が本書の中で取り上げたものに「ハイコンテクスト」がある。

ハイコンテクストとは、正確に物事を伝えなくとも受け手が意中を察し意味が伝わってしまう、「あうん」の呼吸のようなもの。
ITではこれが欠落したローコンテクスト状態が長らく続いているという。

この原因として筆者は、インターネットがアメリカから生まれた点を指摘している。
多民族で「あうん」の呼吸が成立せずに全て説明をしないと伝わらない文化、すなわちローコンテクスト文化に沿って成長したインターネットでは、微妙な表現のおかしさや共感を楽しむハイコンテクストが発達しなかったと言うわけだ。
例えば、アマゾンの商品に個性が無いこと(個性を売りにしていないこと)がこれらを表しているだろう。

変わって日本は、ハイコンテクストに長けた民族である。LINEのスタンプ、楽天の縦長の商品ページなど、日本から生まれたITプロダクトからもそれは見て取れる。

ハイコンテクスト文化を持つアジアの国々に軸足を動かしつつあるITビジネスにおいて、共感をつくるコミュニケーション消費や、商品に対し物語などの付加価値を付けることは、大切な要素になると筆者は語る。

これからのITビジネスの原理

はじめ僕は、タイトル「ITビジネスの原理」の力強さに若干の違和感を感じた。
それは、ITビジネスの可能性とその原理は今後も開発されるものと考えるからだ。
WEBが激動の20年を送り、これからの10年先を予測できないように、ITビジネスのかたちも予測できないものなのではないだろうか。そのような思いで本書を読んだ。
その通り、書かれている内容は、ITの歴史から始まり、最終章は次の10年を見据えたITビジネスの原理の話しだった。

この原理を開発する企業、利用する消費者。
うっすらと映るITの未来は、いつも僕らをわくわくさせてくれる。
それは、相変わらず楽しく、相変わらず明るい。

ITビジネスの原理

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